no plan

無計画な日々

不味い唐揚げという名の通過儀礼

かれこれ20年近く前、兄のお古の冷蔵庫やら何やらと共に僕は上京した。

上京と言っても、正確には上京先は埼玉県の所沢だから、同じ県内を南下しただけなのだけど。

1k(一部屋+キッチンのこと)での暮らし方なんて両親も経験がないし、自分も初めてのことだから自分なりの生活の在り方を構築するのに半年くらいかかった。適当に家電を狭い室内に置き終わると、僕の家族はそそくさと田舎に帰ってしまった。実際にはもっと暖かみを感じる別れがそこにはあったかもしれないが、これから始まる心細い一人暮らしを前にした僕には「まあ、あとは適当にやれよ、じゃあな」と言われたかのように感じたのだ。

誰も知らない土地にただ一人ポツンと置かれるのは、とても寂しいことだ。

当時18年間生きてきた中で一度も経験したことのないことだけに面食らってしまった。どこかの先住民族社会では、成人する儀式として、新成人をジャングルの中に置き去りにしてしばらく放置するのだそうだ。そうすることで、新成人は自分が好きな場所、好きな過ごし方、好きな時間とかを再発見するそうで、家族の価値観から離れ、自分の内なる声のようなものに静かに耳をすます期間が与えられるそうだ。で、僕の場合は放り込まれた場所がジャングルでなくて所沢だったわけだ。

一人で部屋にいても、誰も話す相手もいない。友となるような本、映画、音楽もなく(それらとは20代から30代前半で沢山出会うことになる)、やることも思い当たらず、ただポツンと部屋にいた。

そうして虚しく部屋にいてもお腹は空くもので、とりあえずご飯を炊いてスーパーへ買い物に行った。スーパーにいる人達とすれ違うだけでも、ああ良かった、この世界には僕の他にも人が存在している!と安心したものだ。

スーパーで、パックに詰まった唐揚げを買った。初めての一人きりの晩餐は、ご飯と唐揚げのみの味気ないメニューだった。レンジで暖める気にもならず、冷たい唐揚げとご飯を食べていると、その唐揚げの不味さも手伝ってどうにも虚しくなってきて、ご飯を食べながら僕は泣いた。

今では料理することにも少しは慣れて、実家を離れて生活する時間のほうが、実家にいた時間よりも長くなってしまった。あの時以来、パックに詰められた唐揚げは今も食べていない。

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