no plan

無計画な日々

特殊能力者の相談

僕には特殊能力者の友人がいる。

どんな特殊能力かというと、自分から離れた物体を触れずに少し動かすことができるのだ。

例えば、その友人と一緒に呑みに行くとする。立ち上がらないと手の届かない所にメニューがある。友人に頼むと、彼はすっと手の平をメニューに向けて、意識を集中する。何も起こらないじゃないかと思った矢先、まあ時間にすると3、4秒、メニューが勝手に動き出して僕の手にスポッとおさまる。

友人はニヤリと得意げな表情を浮かべてみせる。

また、こんなこともあった。

一緒にダラダラとYouTubeを見ていて、同じチャンネルに飽きて、タブレットを操作して違うYouTuberさんの動画を見ようとすると、友人がタブレットに手をかざした。

いや、これは無理だろう、物理的に物動かすわけじゃないしと思っていると、次の瞬間、ブワンとYouTubeは違う動画を再生している。

友人曰く、最初は物体を触れずに動かすことができただけだが、最近は電気系統への作用が可能になったようで、スマホタブレット、室内灯、エアコンの遠隔操作なんかも出来るらしい。

 

で、昨日、その友人から久しぶりに電話がかかってきた。要件を聞くと、なんでも新しいことができるようになったから見てくれという。

そこでお互い仕事終わりに、近くのサイゼリヤで落ち合った。

「すげえことができるようになった。」

「今度は何?人を蘇らせることができた?」

「それ凄いね、次頑張るわ」

そんな話をしていると、注文したステーキが二つテーブルの上に載せられた。

「ご注文の品は以上でございますね?」女子高生らしいバイトの店員さんにニッコリ頷くと、友人は改まって

「ちょっと危ないから顔離したほうが良いかも」と言った。

僕は狭い席の中、ステーキのジュウジュウ音を立てる皿から顔を精一杯離した。

友人はステーキの皿に手の平をかざして意識を集中した。

いつもより長い時間がかかっている。友人の顔は赤く染まり、額には大粒の汗が垂れている。

時間にすると15秒ほど過ぎた頃、友人が苦しそうに「どう?」と言った。

僕には何がどう?なのか分からず、何が?と軽く首をひねった。

友人は赤い顔で、必死に顎をしゃくりステーキの皿を指した。

よく見ると、ステーキの皿がテーブルから少しだけ浮いているのが分かった。5cmくらいテーブルから浮いている。

浮いたステーキの皿を丁寧にテーブルの上に着地させると、ブハァと友人は一気に息を吐いた。

「浮かせるようになった!」

「すげえじゃんか!」

「でもまだ実用化するには訓練が必要だよ、5cmくらい浮かせられても何の役にもたたねぇもん。」

実用化ってどうするのか分からないが、友人は真剣な表情で語ってきた。

「もう一つ問題がある。この力使うと、対象の半分の力が反作用の法則で自分に返ってくる。」

「うん?どういうこと?」

「つまり、今ステーキの皿5cmくらい浮かしたじゃん。そうすると同時に俺も2.5cmくらい浮いちゃうんだよ。何故か。」

どうやら友人は物体を浮遊させると、自分も半分くらい浮かんでしまうらしい。

「もっと大きな物に挑戦したいから、その時、足押さえてくれない?」

友人は一週間後に車を浮かべるのに挑戦するそうだ。はて、付き合ったものか。

 

 

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