no plan

無計画な日々

壊れた男

壊れた男と二度出くわしたことがある。

朝の駅の中、壊れた男は人混みの中で、まっすぐにしか進むことができない愚直な機械のように直進する。反対から歩いてくる人達を少しも避けようとせず何人もの人に激突していく。ぶつかられた人たちは「なんだコイツ」と、怒りと驚きと軽蔑の目で壊れた男を見る。

壊れた男は口を真一文字に固く結び、ただ、その狂気を感じさせる瞳の奥で「俺は悪くない、当たった奴が悪い。俺は悪くない、社会が悪い。俺は悪くない…」とでも言いたげなのだ。

髪は縮れておでこのあたりが薄くなっている、180cm前後で肩幅が広くがっしりとした体型、くたびれた黒いナイロンのショルダーバックを肩からかけ、歳は50歳前後、大体同じ時間に見かけてスーツを着ているのだから、会社勤めなのだろう。

壊れた男は会社に行ってどんな仕事をしているのだろうか、管理職として部下とのコミニケーションに悩んでいるのだろうか、それとも嫌な上司のパワハラで会社に行きたくないのだろうか?家族はいるのか、いるのであれば、夫であり父であるときはどんな面持ちでいるのだろうか 。

壊れた男が壊れた原因を、彼だけに求めるのは、なんだか酷な気がするのだ。あそこまで壊れてしまうには、彼を取り巻く環境にも原因があるはずだろう。壊れた男の心が回復して、しなやかに人混みの中を歩む日が来ることを祈らずにはいられない。

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